沢村恵さんへの手紙

 

恵さんへ

 

 

たぶん届くはずのない言葉を、いま迷いながら書き綴っています。


僕はきっと、間違った行動をしているとわかっています。
それでもどうしても吐き出したい感情を抑えることができませんでした。
どうか許してください。


たぶんあなたは、僕を忘れているでしょう。
僕の言葉は何の意味も持たないことくらい十分に理解はしています。
あなたに会ってから、もう25年以上の歳月が流れました。
ずっと忘れようと努力してきたつもりでしたが、

いまだあなたの姿が消えていきません。


あなたのことが大好きでした。
その瞳も、笑顔も、言葉も、あなたが持つ空気感も。


自分のことが大嫌いで、臆病で自信も無かった十代の頃の卑屈な僕は、

その想いを最後まで直接伝えることができずに終わりました。
僕が気持ちを伝えることであなたにイヤな思いをさせてしまうかも、

あなたを困らせてしまうかもというマイナス思考に捕らわれてしまって。


あなたのような素敵な人には、きっと素敵な彼氏がいる。
その中で自分は邪魔者にはなりたくない。
そう思ってあの日の僕は、自分の感情を隠してしまっていました。


フラれてしまう怖さよりも、想いを伝えたあとに気まずくなって避けられてしまい、

二度とあなたに会えなくなってしまうかもという怖さのほうが大きく、

毎日迷いながらも、結局は貰ったベルの番号を鳴らせないままでした。


一度だけ僕のために電話をくれた夜がありました。
あの日、来るはずがないと思っていた電話を突然貰ったことで驚きや嬉しさ、

そしてあなたがもうこの街にいないと知ったときの絶望感など、

様々な感情が一気に溢れて混乱してしまい、その結果思うこと何ひとつ伝えられず、

僕はどうしようもなく情けない生き物でした。



あれから長い年月、自分を責め、身を千切るような後悔ばかり繰り返してきました。
もう二度とあんな悔いを残したくないという思いで、

あれから少しずつですが僕は成長してこれたと思います。


想いや感情を正直に表現できるようになり、人の目を見て話せるようになりました。
すべてあなたと会えたことから始まった変化です。



ふと気がつくと、長いと思えた人生の時間はあっという間に過ぎ、

自分の生きる先にその終わりを感じとってしまうような年齢になってきました。
いずれ来てしまう最期の瞬間を思い浮かべたとき、僕が後悔することはただひとつ、

あなたに正直な気持ちを伝えきれなかったことだけです。



どれだけ時間が過ぎても、あなたのことだけが消えていきません。


若かった日々には妄想にも似た期待や願望がたくさんありました。
当時伝えたかった感情の表現は、今この歳では似つかわしくない空虚なものになります。


それでも今現在、僕が抱えるのは、

あの日から変わることないあなたへの感謝の気持ちです。


僕はあなたと逢えて幸せでした。
自分が理想としているような関係にはならなかったけれども。
素敵な片思いができたと、今はそう捉えています。


あなたを好きになれて良かった。
もう会えないのにもかかわらず、想い続け辛かった日々を抜けて、

今はそう感じられるようになれました。


その言葉、その姿、その表情、まるでついこの前のように思い出してしまい、

気が遠くなるほどの年月が過ぎてしまったことについ先日まで気付けないほどでした。


あの日のあなたを思い出すだけで僕はいつも幸せな気分になれます。
いっしょにいてくれた時間、僕は話し下手で、うまく感情表現もできず、

あなたを退屈させてしまっていたけど。


あの日あなたが、僕と同じ時期、

偶然にもあの場所にいてくれたことに感謝しています。


あまりに長い年月の末の無意味な言葉に
あなたは呆れて笑うでしょうか。
それとも不快感を示すでしょうか。


今さらこんな言葉を表に出すことを
恥ずかしく情けなく申し訳なく思います。

けれども、あなたの事を思い出すだけで今でもドキドキします。
今はもう忘れられないと諦めているし、

むしろ幸せな記憶を忘れたくないとさえ思っています。


あなたに会えて良かった。
隣にいてくれたあの日、僕はずっと夢見心地でした。



電話をくれた日を最後に、あなたに繋がる道は完全に途切れてしまいました。
あなたが今どこでどうしているのか、僕にはそれを知りうる術もありません。


僕はあなたと出会えた街で、今もまだ暮らしています。
いっしょに過ごせた日の最後にあなたとお別れした場所に行くと、

僕はこの街にはもういないはずのあなたの姿を、無意識のうちに今でも探してしまいます。


気づかないうちに歳を重ねて
今はもう特別なことは望んでいません。
ただ、あなたが今もどこかで遠くで
あの日と同じ笑顔で元気で過ごしていること、

そしてあれからずっと幸せな日々を送っていることを心から願っています。


きっと僕は、人生最期の瞬間まであなたに恋しています。
僕の人生の中に、一瞬だけでもあなたがいてくれたことに深く感謝しています。



忘れることができなくて、本当にごめんなさい。

 

 

 

 

 

※ ポカホンタスの夢「沢村恵さんへの手紙」より転記

https://ryuzo1995summer.hateblo.jp/